嵐の一夜 4
部屋の中に、もうすぐ朝の光が差し込むだろう。
窓の外では小鳥が目覚めの挨拶を交わす声が聞こえる。
腕の中には、小さなマヤがあどけない顔をして眠っている。
夜に咲いた妖艶な花が、まさかこんな可憐な花だったとは。
一夜だけの夢、とマヤは言っていたが…
この子も窓の外の小鳥のように、全て忘れて大空に飛び立ってしまうのだろうか…?
マヤが女優として成功した時…おれは誰よりも嬉しいだろう。
世界でも通用するような女優になるのかもしれない…
その時おれは、喜んで送り出せるのだろうか…?
この子を護り、愛する。一生、と決めた以上…厳しい覚悟が必要だろう。
眠っているマヤに口づける。
解決しなくてはならないことが山積だ。
おれはこの嵐の一夜を忘れはしない…絶対に。
温かい布団のなかでぐっすり眠った…
なんだかいつもと違うのは…
唇に…柔らかな…やわらかな…? !!
マヤがパチ、と眼を開ける。
口づける真澄の顔のアップを見てビクッ、と震える。
二人とも全裸のまま、抱き合って朝を迎えていた。
マヤの身体が全身紅く染まる。
「おはよう」
「お、おは、おは、お、おはよお、ござっ…」
最後まで言えなくて、真澄の胸に額をつけ、また慌てて離れて両手で顔を覆った。
「そんなに真っ赤になれるもんなんだな、人間って」
「うぅ~~~~~~~~~~~~~~~~」
「かわいいな、マヤ」
マヤの脳天が爆発する。もう、恥ずかしくて真澄を見ることが出来ない。
「いつまで隠れてるつもりだ?もうしっかり丸見えだけどな」
そう言って、真澄はつるん、とマヤのお尻を撫でる。
「ひゃっ!!」
「夜のこと…もう忘れたなんて言うんじゃないだろうな」
「忘れたいくらい…恥ずかしい…」「酷いな。責任とってもらうからな」
「責任とって、って…普通オンナノコが言うセリフです」
「おれは絶対にこの夜を忘れない。マヤが好きだ」
真剣な声が聞こえて…マヤの心が震えた。
「あたしも…忘れません。 …速水さんが好きです」
ほぅ、と吐息が聞こえて
「良かった。嵐の夜の気まぐれです、って言われるかと思った」
「…気まぐれで初めてを捧げたりなんかしません」
「マヤ…」
二人はまた、熱く口づけた。朝の光の中で。鳥のさえずる声が聞こえる中で。
「い、いかん…このままだと帰れなくなる。もう、だめだ」
とろり、となり始めていたマヤも
寺で待つ人達の顔が浮かんで、慌てて離れて着替えをはじめた。
「ああ!速水さん、これ…! ごめんなさい…!どうしよう…!!」
ずっと下敷きになっていた真澄のコートはしわくちゃになり…
マヤから滴った紅梅の跡が滲み込んでいた。
「大丈夫だ…気にするな。さ、いくぞ」
朝靄の梅の谷を手を繋いで歩く。
幻想的な中を、幸せを噛締めながら歩く。
「素晴らしい眺めだな。もう何もかも忘れて、ふたりでここにいつまでもいられたら、と思うよ」
「ええ…速水さん…」
「でもそうしたら、君の紅天女は観られないな」
「あたし…速水さんに喜んでもらえるような紅天女に…絶対になってみせます」
真澄は繋いだ手に口づける。
「こうなってしまったからといって、試演の出来が悪かったら、おれは容赦なく席を立つからな。
しっかりと演じて欲しい。君なら出来る、と信じているよ」
「はい。必ず。見ていてください、あたしを」
マヤも繋いだ手に口づけをし、愛おしく頬ずりをする。
マヤは別れ際に、真澄に一枝の紅梅を渡した。
「本当に、ありがとうございました。あたし、嵐の一夜のことは、一生忘れません。
しばらくは逢えなくなるかもしれませんけど…
紅天女になって、速水さんに絶対に逢いにいきますから…」
「ああ。おれも正々堂々と君を迎えられるようにする。何があってもおれを信じていて欲しい」
最後に小さくキスをして、二人はわかれた。
旅館について、真澄は受け取った梅の枝を見て驚く。
さっきまで咲き誇っていた花は一輪残らず散ってしまっていた。
「梅の谷の幻…あの谷でしか咲くことの出来ない恋…」
真澄は不安に駆られて、コートの匂いを嗅ぐ。
マヤの香りが、焚き込んだようにしみついている。
昨夜の邂逅を思い巡らす。
「梅の谷を出てしまえば…恋は跡形もなく消えてしまうのか…?」
ふと、眼がとまる。
「いや、大丈夫だ。一輪、しっかりと咲き続けている…」
コートの裏地にポチリと咲いた、マヤの花が。
おしまい。
ああああああ、ほんと蛇足だよ~~~~~~!!!
散らない梅の花、が書きたかったんです。だから。
シャキーン、とした決意表明マヤたん、カックイイ!がんばってくれ~~~
恋路に悩んでグネグネ、オネオネ、はホントは似合わないよ!!
それでは、またっ!!
「ス」見てぶっ壊れてキマス!! ちゅど~~~~~~~ん!!
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