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会いたい。
2011-04-17 Sun 10:30
船上で夢のような一夜を過ごしてから、1週間が過ぎた。

稽古は充実している。芝居が完成に向かっている手応えも感じている。

だけど、何も無い時のあたしは…

本当のあたしの魂の片割れ、速水さんのことを求め続けている。
速水さんは、「しばらく会えなくなるかもしれない」って言ってた。
あたしを巻き込まないために…って。
それは、あたしには途方も無く難しいことに、
速水さんが挑もうとしている、ってことなんだろうか。

信じて待つ、と決めたから、揺るがない。
でも、会いたい、と思ってしまう。

街をあるいていても、
背が高い人を見ると、
栗色でゆるくウェーブのある髪の人を見ると、
同じ外車が走っているのを見ると、

つい、愛しい彼ではないか、と見つめてしまう。

あいたい。
あいたい。
あいたい。

でも、今、あの人は夢のために闘っている。
ふたりの、夢のために。

だから、会いに行っちゃいけないの…




そうして悶々と歩いていると、いつのまにか会社の近くまで来ていることが多くなった。
ああ、ダメダメ、もうビョーキ、だわほとんど。


こんなところでウロウロしてたら、叱られちゃうよ…


「チビちゃん!!」


ああ、重症だ。幻聴、ってやつだわ。
せめて、写真でも持ってたら、会いたい気持ちが少しでも満たされるのにな。
けっこう週刊誌なんかに載ってることあるから、探してみようかな。

「おい、ちびすけ!」

なぬ?!


「マヤ!・・・・ちびちゃんって呼んだからってガン無視することもないだろう!」


ぽやん、と口を開けてるあたし。

いけない…迷惑かけちゃう!!

「ごごごごごごめんなさい!!すぐ帰ります!!」

「確かに一瞬だけでいい、とは願ったけれど、会ってしまったらこっちのものだ。」

「えっ」

「コンビニ、付き合ってくれ」

「は?」

「水城くんとのちょっとした賭けに負けた。罰ゲームにコンビニデザートを買いに行く」

「マヤのぶんも買ってやるから。いっしょに選んでくれ」

あたしは焦った。
いいんですか?あたし、いっしょにいても

「表向きは、知り合いに偶然会って、ちょっと手伝ってもらうだけだ。大丈夫だろ」

速水さんは、とても穏やかに微笑んでいる。
あたしは、会いたくて会いたくてたまらなかった笑顔を心に刻みつけようと思って
速水さんをじっと見つめた。

「そんな顔で見つめられたら、ただの知り合いでなんて言い訳、出来なくなるぞ」
おでこを指でちょん、とこづかれた。

「水城さんの賭けってなんだったんですか?」
「魂の片割れなら、ふたり同時に同じことを考えているって言われていただろう?」
「はい。月影先生はそうおっしゃってました」
「水城くんは、本当にそうなら、君が会社玄関前に佇んでいる筈だから見て来い、ってな。」
「えっ」
「で、君がいたら、コンビニデザートを秘書室に差し入れするように、と」
「もしあたしがいなかったら?」
「そのまま直帰で君に会いに行く」

どっちにしても、会うんじゃん。
…あれ、速水さんはあたしがいないほうに賭けたの?
…魂の片割れじゃないって思ってる?
あ、でも、あたしが居るってことはやっぱり魂の片割れ?

「何、百面相してるんだ。行くぞ」


「速水さん、コンビニなんて行くんですね」
「行くさ。このへんのじゃないけどな」
「天下の速水真澄が、パシリですか」
「言うね君も。何ふくれてる」
「別に。あたしがいないほうが良かったですもんね」

速水さんが黙った。
バカ。あたし。
嬉しいくせに、会えて嬉しいくせに、ケンカになりそうなこと言っちゃいけない。

「あの…」

「いなかったことに、してしまおうか…?」
「この際、賭けに勝ったことにして、君に逢うために直帰した、ってことにするか…」

ふと見た速水さんの瞳が、あたしの口唇に注がれているのに気付いた。
真剣な瞳。

「このまま、君を連れ去ってしまおうか…?」

わ。わ。わ。
あたし、まだ心の準備はできてません!

その時、速水さんの携帯が鳴った。

『真澄さま。このままお帰りになっちゃ困ります。マヤちゃんと会えたことくらい、こちらは確認済みですから。
ズルは許しませんよ!!秘書室全員お待ちしておりますので、お早くお戻りください?』

速水さんは苦笑いしながら、君には敵わないよ、と言って携帯を切った。

「バレてますね」あたしは笑った。
「ああ、怖い秘書どのだ」速水さんもわらった。

いっしょにコンビニスィーツを選んで、帰路につく。
ようやく稽古が軌道に乗って、とても順調なことを話した。
「それは楽しみだ。本物の紅天女に会えるんだな」

あっというまに、会社の玄関についてしまう。

「あいたい、あいたい、って思ってたんです、あたし」
速水さんは微笑んでいる。
「そうしたら、ほんとに会えてしまって。嬉しかったけど、迷惑かけちゃいますよね」

「迷惑なんて」
速水さんは優しい声であたしの頭を撫でる。
「迷惑になるようなこと、俺も同時に考えるはずがないだろ」

「無理に我慢しても、きっとこんなふうに合わされていくんだから、」

あたしの顔の高さまで身体を折り曲げて、耳元で囁く。

やっぱり君は、俺の片割れだ

真っ赤になって動けなくなっているあたしの両肩を掴んで、社内に連れ込まれた。
「秘書課でデザート食べながら待っていなさい。送っていくから」
「そ、そんな迷惑かけられませんよ!」
「多分、そのほうが早く帰れる、と歓迎されるから心配しなくていい」

ぽんぽん、促されながらエレベーターに乗る。

「俺だけのデザート、お先に頂戴するためにもな」

エレベーターの扉が閉まる瞬間に、
ありえないくらいに顎を上に向けられたあたしと
かなり猫背姿勢になった速水さんの

くちびるが、重なった・・・




おしまい。





あとがきはこちら。










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