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ささやかな贈り物 1
2011-07-04 Mon 01:14
あっつい夏にアップするのもどうかしら、とは思うのですが、冬のお話です。

わりと初期に作っていた作品でした。

だったらピッタリのシーズンまでおいときゃいいじゃん、と思うのですが…
スイマセン、堪え性がなくて。

しばらく、マスマヤがラブラブしている作品が多いので、久し振りに片思いの頃のお話。
それはそれで、萌えますものね~~~vvv

それでは、どうぞ。







               ささやかな贈り物



今日はバレンタインデー。

…なんてことはおれの業務には一切関係ない。
しかし社長室の扉を一歩出ると、甘い香りがそこかしこに漂っているのだ。
甘い物が苦手、というのは味だけでなくてお菓子の香りも含めてだから
今日ばかりは社長室に引きこもり、に近い。
そういった事情を知らない新入り社員や取引先からやむなく、なチョコレートの類は
申し訳ないが、おれの目に触れる事無く秘書達の丁寧な返礼と共に処分されるのが毎年のならいだ。

ノックとともに、水城君が入って来た。

「珈琲をお持ちしました」
「ああ、ありがとう。ちょっと休憩するかな」
「では、少しお時間いただいてよろしいでしょうか?」

水城くんは何やら嬉しそうだ。

「いつもお世話になっている社長に、ちょっとしたプレゼントですわ」
おれはプレゼント、と聞いてまさかチョコレート?君が?という思いを込めて、
怪訝な表情を作って水城君を見た。
「チョコレートを社長に贈るほど、わたくしイヤミな女じゃありませんことよ」
そう言って片眉を上げてニヤリとした。

「昔マネージャーを兼任していた頃の知り合いに会いまして、渡されましたの。」

そう言って、ミニアルバムを出してきた。

「大都に所属していた頃のマヤちゃんですわ。
大河ドラマの時にADだった人が今ディレクターになられて、久々にお会いしたのです。
撮影の合間に写真を撮っていて、渡そうと思っていたらあの事件で。
もしも消息を知っているなら渡してあげて欲しい、と。」

「おれに渡されても…?」

「まぁ、ちょっとごらんなさいませ」

戸惑うおれに構わずに、水城くんは見せるようにしてページをめくり始めた。

「ほら、いい表情してますでしょ」
まるで自分の妹を自慢するかのように、水城くんは微笑んでいる。

差し入れのエクレアにかぶりつく嬉しそうな顔。
長刀を勇ましく振り回す表情。
スタッフとお喋りに興じている顔。
おや、これは欠伸を盗み撮りか?
勉強中の姿もある。…あきらかに、はかどっていないのがわかるな。
ああ・・・ついに居眠りか。さてはこうなるとわかっていたな?撮影者。
そうだ。佐都子の表情。
なんだ・・・里見といっしょに写っているのもあるじゃないか。こんなもん、処分だ。
こっちに向かって、走ってくる、満面の笑顔だ。この顔が一番いいかな。

「あんなことがあって…あの子はとても辛い経験をしましたけれど…
こんなに楽しそうにしていたこともあったのだな、とちょっと安心出来たのです。
真澄さまにも、ぜひそのことをお知らせしたかったので。」


そうか・・・そうだな。

おれはあの子の青春の他愛のないキラキラした時間を奪い取ってしまった、と。
もっと普通の女の子らしい生活もさせてやるべきだったのに、と悔やんでいた。

あの子がこの道を自ら進んで選んだということはあっても
もっと早くに母と娘の温かな時間を作ってやることは出来たはずなのに。
おれ自身、そんな時間を持つことが叶わず、母の柔らかさに飢えていたというのに。



写真の中のマヤは、キラキラとして、ほのぼのとして、明るくて朗らかだった。
水城くんが思う以上に、おれの心を捉えて離さない表情ばかりだった。


「君が渡してやったほうがいいんじゃないのか?」

「わたくしが渡しても、よろしいんですの?」

また、片眉をあげておれを見る。
ぱたん、とアルバムを閉じて早々に片付けようとする。

ああ…もう少し、眺めさせてくれたって…

「…いや…せっかくだから、この機会を有効利用させていただくよ」

「さすが、社長ですわ。食事やケーキで未来の大女優様をご接待、もなさいますのでしょ?」」

そう、上手くことが運ぶだろうか。
俺の姿をみると、全力で回れ右をして気付かなかったことにするあの子が、
そう易々と俺の誘いを受けるとは思えない。

思案顔をしているのを見抜いてか、

「そうそう、マヤちゃんそろそろお誕生日のはずですわ。絶好の機会ですわね」

言われなくてもわかっている。要は誘う口実なんだってのに。
「誕生日のお祝いをしてやるから」なんてあの子が素直に乗ってくるとは思えないのだ。
とはいえ、絶好の機会であることには間違いない。

まったく、今までで一番接待しづらい相手かもしれんな。



どうする、速水真澄。





                          つづく。
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頑張れ 速水真澄。
2011-07-04 Mon 07:08 | URL | #-[ 内容変更]
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