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ささやかな贈り物 2
2011-07-04 Mon 10:30
夏○様。見えないようにしておきましたよ~
ご確認ください。

では、暑い日々に送る、真冬の話。

ささやかな贈り物 2です。





  


            ささやかな贈り物  2


寒い。
だって2月だもん。

だけど、今夜はもっと寒さが身に凍みるような気がする。
きっと、あたしだけ、だろうけど。

どうしてか、っていうと、今日はあたしの誕生日、だから。
そんな日に、麗も皆も地方に公演でいなくて、ひとりだから。

かあさんと別れる前も、ひとりきりの誕生日なんてことは無かった。
仕事が終わってから、安いショートケーキを買って来て、
仏壇のロウソクだったけど灯を吹き消してお願い事をした。
「マヤがちょっとでも器用な子になりますように」なんて本気か冗談か半々の願い事をかあさんがして、
あたしがむくれる、という毎年のお楽しみだった。

麗はさっき電話をくれた。
「ごめんよ、誕生日の当日にひとりにして。帰って来たらみんなでお祝いするからね。」
舞台を終えた雰囲気のなかで、みんなが電話に向かっておめでと~~~!って、がなっている。

嬉しかった。
でも、電話を終えたらすごく寂しくなって、ちょっとだけ…
ほんのちょっとだけ、涙が出ちゃった。

ひとりでケーキなんか食べる気も無いし、わびしい誕生日。

ふう、とため息を吐いたら、大家さんが呼んだ。電話だよ、って。
あれ、麗、なにか言い忘れたかな?と思いながら出ると。

「元気か。」

ゲッ!!その声は…

「俺の声なんか忘れたか?ちびちゃん」

「忘れたかったけど思い出しちゃいました!!ご無沙汰してます!!速水真澄若社長!」

「お元気そうでなによりです、北島マヤさん。」

「一体何の用事ですか?もう一切大都芸能に関わる事はなかったと思いますけど!」

「いや、そうでもなかったようだ。ちょっと玄関出てみてくれ。」

「??」

「じゃあな。切るぞ。」

「ちょちょちょ、なんなんですか!!」

あっさり切れてしまう。
言われたまま、玄関を出る。
高級外車が停まっていて、あの速水真澄がドアにもたれながらタバコに火を点けていた。
そこだけ、なんだか世界が違うみたいだ。
しまった、こんな日に会うことになるなんて、幸先悪いじゃないの。
無視して部屋に帰ればよかった。

あたしに気付いた速水さんはゆったりと笑った。

「素直に出てきてくれたな。ちょっと幸先いいみたいだ」

あたしはサイアクだわ。




「ことづけものがあってね。大河ドラマの時に仲良くしていたAD君がいただろう?」

「あ…加藤さんですかね」

「君の写真を渡してやってくれ、とね。このたびめでたく昇進したそうだよ」

「へえ~加藤さん、エライヒト、になったんですかぁ~」

懐かしい名前を聞いて、あたしはつい、警戒を解いてしまった。

「これ、だ。」

速水さんは小さなアルバムを出してきて、渡してくれた。

「うわぁ」

あたしはページをめくってみた。
速水さんが、ピン、とライターを弾いて、灯りを点してそばに近づけてくれた。

なんだか、ほわっとあたたかい。
直火だし。

いや、そうじゃない。
写真に写るあたしの表情に、楽しかった日々、充実した日々が蘇ってきたのと、

あ…あれ、速水さん、コート…

「何も引っ掛けずに外に飛び出すなんて、風邪引いたらどうする。」
ふと見ると、とても優しく微笑むから、つい赤面してしまった。

「あ…ありがとう…ございます…良い、記念になります」
「あたし、あの頃のこと、あまりしっかりと覚えていないんです。
 芸能界についていくのに必死で、寝る時間も惜しんで。
 でも、こんな表情見てたら、楽しかったんだな、って思えます。
 ううん、いっぱいいっぱい、いい経験が出来たんですよね」

「本当に、いろんなことがいっぺんにあって、ひとりでは抱えきれなかったけれど…
 今ならわかります。いろんな人に支えてもらって、乗り越えることができた、って。
 それで今のあたしがあるんだ、って。
 速水さんにもいっぱい面倒をかけちゃいました。今日は特別な日だから、素直にお礼をいいます。
 速水さん、ありがとうございました。」

スン、という鼻をすするような音がした。
ぱっ、と見上げると、速水さんはさっ、と上を向いた。
「失礼。君からお礼を言ってもらってとても感激なんだが、今夜は冷えるからな…」

「あっ!速水さん、コート!ごごめんなさい、寒いですよね!」

「そろそろ部屋に入ったほうがいいな。そうだ、もう一つ。」

車のドアをあけて、一目でケーキとわかる箱を出してきた。

「あ・・・」

「ちびちゃん、誕生日おめでとう。ささやかながら。風邪引くんじゃないぞ」

そう言って、車に乗り込もうとするから、引き止めた。
いや、引き止めるつもりなんてホントは無かったのに、袖を掴んでしまった。

だって、今日は、ひとり寂しい誕生日だったから。
そんな日に、とても嬉しい贈り物を持ってきてくれたから。
頼みもしないのに、コートをかけてくれて、灯りをともしてくれたから。
温めて、くれたから。

「あ、あの、ケーキ、一緒に食べてください。ロウソク消すとき、歌って下さい。
 誕生日なのにひとりで、寒くて、寂しいんです」

「君な…」

「後先10年分くらいのお礼を言っちゃったんです!そのくらいいいでしょっ!」

「二人っきりになるのか?君の部屋で。」

「何か問題でも?!」

「・・・・・・・わかってないな、君は。・・・・まあいい。
 じゃ、お邪魔する。後で文句言うなよ。」





            つづく。
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