、という理由で ２
おれのための。
…いや、おれとマヤのための。
…いや、大都グループ全体のためのMissionといっても過言ではない。
持っていくもの。（遠足かっ!!）
・ストップウォッチ。
きっかり3分間なので、出来るだけ時間は有効に使いたい。
出来れば対象に気付いてもらうための時間も必要なので仕事は1分間にまとめたい。
何度もロープレをして、完全なるプレゼンに努める。
・伝達の為のメッセージカード。
・ホワイトボードとペン。
不測の事態にも焦らず伝達だ。
そして、過去のどのタイミングが最適なのか。
これを考えるのがなかなか難しい。
あまり多くの事を伝えすぎてその結果、今がまったく違うものになってしまっては困る。
最低限のことだけにして、あとは本人の努力を期待したい。
あまり甘やかすべきではない、と思う…
いろいろ考えたあげく、あの時に行くことにする。
一番切なくて、夢や希望なんてこの世には無いのだ、と諦めたあの時に。
「イサドラ！」の初日パーティーで、マヤの「忘れられた荒野」に注目が行くように一芝居打った。
憎悪に燃える野生の狼になったマヤが力の限りおれに噛みついて
観客はマヤの狼少女に興味をもち、おれの計画は成功した。
しかし…
おれはマヤを傷つけ、
おれも傷ついた。
これで、ますますマヤから殺したいほど憎い男と思われるのは明白だった。
はじめからこうなることを承知でこの方法を考え出したんじゃないか。
わかっていたことじゃないか。
何をそんなに…気落ちすることがある…速水真澄よ。
明日はいよいよ初日だ。
演劇協会会長も、アカデミー芸術祭の主催も審査員も期待している。
どんな狼少女に…きみはなるんだろう、マヤ。
たとえ憎まれても…恨まれても…。
おれはきっと生涯、初日の前の日には期待と喜びと…切なさをもって過ごすのだろう。
紫のバラの陰で…。
でもやはり、胸が痛い。
そろそろ夏も終わる。
天気が悪くなるらしい。明日の客足に影響が出なければいいが…
そう思って外を見る為に窓に近づいていく…と…
おれの姿がふたつ、窓ガラスに映っている…。
明日を空けるために仕事を詰めたからな、疲れが出たんだろう…
あ？
え？
ええええええええ？？？？？？？？？？
いくら目をこすっても、両頬をバシバシ叩いても、ふたつめのおれの姿は無くならない！！
お…バケ…？
それか…とうとう錯乱したか…？
そうしてひきつっていると、ふたつめのおれがおもむろにA4くらいの紙を見せた。
「信じられないだろうが、おれは未来のお前だ」と書いてある。おれの字で。
「時間が無いので要点だけ伝える」
「明日の初日は何があっても
どんなことがあっても
這ってでも絶対に観に行け」
「紫織さんと婚約はするな。正直に自分の気持ちを言え」
「諦めるな。マヤに想いは通じる」
「マヤはとても優しい…幸せが待ってるぞ!!」
「質問は？」「ちょ、ちょ、待ってくれ！！そんなこと信じられるわけがないだろう！！
あの子がおれに優しいなんて、こんなに憎まれていてありえない！」
「それに見合いを断るとなったらオヤジが黙っていないだろう！」
「おれは幸せ、なんてものには一生縁が無いはずだ！」
ふたつめは、おもむろに何やら書きだして、おれに見せる。
「それは意見で質問ではないだろう
何が知りたいんだ」おれが会議で部下に言ってることを…言われてしまった。
言葉に詰まる。
「おまえは…マヤと幸せなのか？」
ふたつめはニヤリ、としてまた何やら書き始めた。
「マヤはイイぞ」何が？
な に が イ イ ん だ ？！
「イイって…なにが！？」
ふたつめは…楽しくて仕方がないというようなニヤケ顔で
おれに向かって掌をひろげ、微妙な加減で五指をすぼめ、ひろげた。
「？？？？？？？？？」
…と、思ったところで、スッ、とふたつめが消えた。
おれは思い切り頬っぺたをつねったり
マヤに咬みつかれた傷のカサブタを引きちぎったりしたが
やっぱりかなり痛かった…。
本当に、信じがたい。
だが、たとえ夢まぼろしでも…マヤとおれの幸せな未来、という言葉の響きはおれを有頂天にさせた。
信じたい…信じたい。
それだけで、さっきまで憂鬱だったおれは心が弾んでいる。
根拠の無い喜びに、目まいがしそうなくらいに。
まずは…明日。
何故あんな事をいうのかわからないけれど…這ってでも初日を観にいく。
当たり前じゃないか！！！
砂時計の砂が落ちきって、意識がもともとの時間に戻る。
ちゃんと伝わっただろうか。
信じてくれなきゃ困るんだが。
あいつがどんな奮闘をしたかは…明日の朝刊でも見ればわかるだろうか。
とりあえず大都は安泰のようだから安心だが。
しかしあいつ…やっぱり面倒くさい…!!
自分のことながら、厄介なヤツだったと思う…。
つづく。
はひゃ～～～～。
やっぱり時系列をわざわざ歪めていくのって難しいですね～～～！！
それでは今宵はこのへんで。
明日もいい日でありますように…！！！
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