今宵も

　はね吉の　がらすの森　～今回も、フォントいぢりしてます～

　　　…にお越し下さって、ありがとうございます！！



また、どうなるの？の期待を見事にぶった切ります。
もうしわけありません～～～～～～～^^






では、続きからドゾ！！

　　　　　　　　　　　　　　、という理由で　３




　台風９号はここ最近では一番勢力が強いらしい。
昼をまわった頃から東京の空も掻き曇り、吹く風が強くなりだした。
恐れていたことがどうしてこうもうまくめぐり合わせてしまうのだろうか。

「ふたつめ」（未来のおれ、というべきなのかもしれないが、この速水真澄がそんな事を信じるなんてどうか、とも思うので…
しかしやはり便宜上こう呼んでいる…いちいち屁理屈をこねるな、と言いたいだろうが
こういうところが速水真澄の速水真澄たる所以なのだ）
…が言っていたのはこのことだったのか、と気がついた。
「どんな事があっても何があっても這ってでも」マヤの初日を観にいく。

そうだ。
台風が東京を直撃して風速40Mを超えて道路が封鎖して交通機関が完全マヒして電線が切れて停電になったとしても、
おれは絶対に、マヤを観にいくのだ。

それが何か、おれとマヤの幸せな未来への足がかりになるのなら。

しかし…雨合羽くらいは準備しておくべきだったのかもしれない…
いや、タキシードやダブルのスーツが似合うおれに、雨合羽、など合わせられるだろうか？
「熱意の傘」が…あるだろう？

---

恐れていたことは、本当に起こるものだ。
やはり通行止めをくらって、嵐の中を雨月会館まで歩いて行く事になった。
「熱意の傘」も役には立たない程の土砂降りだったが、マヤを観たい、という熱意には嘘がなかった。

さすがに会館のロビーには人気がない。
公演を中止するかどうかで話し合っているのかもしれない。
雨水でしとどに濡れながら、やっとの思いでドアを開ける…

噛み付かれて以来のマヤは、完全に戸惑っていた。
恨みの対象でしかないおれが、ただ一人の観客になろうとは。
しかも、公衆の面前で蔑まれた張本人が、その芝居を観に来るとは。
この嵐の中を滅茶苦茶になってまで。

マヤ。
おまえの熱意を魅せてくれ。
おまえの芝居への情熱に魅せられて、おれの濡れた身体が乾くほどに。

---

「忘れられた荒野」は終幕した。
たった一人の観客は、想いを込めて拍手を贈る。
素晴らしかった。想像していた以上に、素晴らしい舞台だった…。
これで停電さえなければ…
もう一度見る機会を作ることが出来ないか…？
帰ってスケジュール調整をしたい。


「ふたつめ」が言っていたとうり、這ってでも観に来る価値はあった。
案外「未来」からの使者、というのは本当なのかもしれない…。
黒沼さんの提案で、嵐が止むまでは初日の打ち上げに参加させてもらうことになった。
マヤとあんなケンカをして、険悪な関係になっていたが
少しは穏やかになるキッカケなどあるといいが…。


「あの…今日は嵐の中、観に来てくださって、ありがとうございました」

マヤがおずおずとやってくる。

「それから…最後まで席を立たないでいてくれて…あの…あたし…
　あ…ありがとうございます」

素直だ。かわいい…。

「きみがおれに礼を言うなんて、きみらしくないぞ。
　噛み付かれるよりはいいけどな」
「う…速水さん…っ!!」

痛いところをつかれた、というような、焦る表情。
かわいい…。

「きみのジェーンはすばらしかったよ。最高だった…！」
マヤは急に真っ赤になる。
かわいい…。

「あっ、あっ、ありがとうございますっ…あなたが本気で言ってくれてるのなら嬉しいですっ」

素直なのかひねくれているんだか。
かわいくて、おかしくて、…嬉しくて笑ってしまう。

すると、スッ、とマヤが近づいてきて、おれの髪に触れる。
驚いていると、舞台で使っていた青いスカーフでおれの濡れた髪を拭き始めた。

「あっ、あのっ、濡れたままだと風邪をひきますっ
　髪の毛…びっしょりだから…あの…あたし…っ」

きみはそんなに懸命な瞳をして、おれのためにしてくれるのか？
おれを憎み、恨んでいるんじゃなかったのか？
背が低いのに、必死になって、一生懸命背伸びをして、おれのために。

マヤ…きみって子は…本当にこころの優しい……。

胸がときめいた。
マヤのひたむきな瞳がおれの髪に集中している。
マヤの優しさを受けるということが、こんなに幸せなことだったとは…。
これ以上されていると…抱きしめてしまいそうになる…。

「もう、いいよ…ちびちゃん。青いスカーフ…感動的だった。
　せっかくの小道具を、申し訳なかった」
「いえ…」



せっかくのマヤとの親しい時間を、桜小路にかっさらわれてしまった。
共演者だからって肩なんて抱きやがってあの野郎。
おれの肩に触れて、髪を拭ってくれたマヤの感触を思い出す。

ああ、たしかに、マヤは優しい。
憎いはずのおれにまで。
「ふたつめ」の言っていたことはこれも符合した。
「幸せが待っている」
「想いが通じる」
それも…そうなのか？
あいつの言っていたことは、すべて本当に起こることなんだろうか？

「マヤはイイぞ」
何が…？


……



去り際に意味深な笑顔で手を振っていた。



……？


振っていた、じゃないな…


マネをしてみた。


………。


………！！


今夜の舞台冒頭で、捕えられる前の狼少女は…生まれたままの姿だった。
マヤは多分肌色のボディ・スーツを着ていたのだろうが、
正直ハダカなのかと思ってドギマギしたのを思い出した。

…思っていたより…成長していた…。










・・・・・・・・・。イイ、のか…。








い…いかんっ………！！



これ以上、ここにいるわけにはいかなかった。
これでマヤの姿など見ようものなら、
この血液の集まり具合を止める術をおれは知らない！！

濡れたコートで前を隠しながらここにいるよりも、
嵐の中を帰っていくことをおれは選んだ。

そそくさと青いスカーフをたたんでソファに置き、
誰にも見つからないうちに外に出た。


外はまだ、嵐。

おれの中の嵐も、当分止みそうにないだろう…。

---

「…、という理由で、おれは二度と『忘れられた荒野』の舞台は観にいけなかったんだ」

「もぉ～～～～～！速水さん、スケベにも程がありますっ」

「ははははははははは」

「まぁ…だからこそ、紫のばらのひとだってことがわかっちゃったんですけど」

「そうだな。あれで赤いスカーフバージョンを観られなかったからな」

「いろいろな妄想を励みにしてきたお陰で、素直に告白出来たんじゃないか」

「励み…って…」

「あいつが言ってたとうり…マヤは…イイ」

「何が…？」






「なか、が…」








「　　ば　　　か　　　　!!　」







　　　　　　　　　　　　　　おしまい♪





「熱意の傘が…あるだろう？」
・・・はお気づきの方がいらっしゃるかと思うのですが、
「福YA工務店」のCMです。（三浦○和さん出演の）
このセリフを言ってるオジサマが渋くって好き♪



それでは今宵はこのへんで。
あしたもいい日でありますように…♪

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