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花菖蒲
2011-06-26 Sun 18:12
毎日、暑いですね。
お身体は大丈夫、ですか?

おまちどの「四題噺」でございます。

4つのお題は

「小悪魔」 「指」 「花菖蒲」 「誘惑」   ・・・です。

いかにも、ばるん男爵系を意図して考えていただいたお題ですね(ニヤリ)

しかしながら、残念ながら、ばるん男爵系ではありません!
えっ、どうやってここからソッチにいかずに話が出来るのっ!ですがね(ニヤリ)

かなり無理くりな感じで、ざこば師匠が涙目、な感じなんですけど
お許しいただけますように…

あ、それから追加で「朝倉さん」もです。(五題やし)

それでは、どうぞ。












      花菖蒲


 梅雨の晴れ間、速水邸の庭に車椅子に乗った英介とマヤが散策をしている。
6月の日曜、「父の日」なんて全く縁のなかった者同士が集まって団欒の時を過ごしていた。

真澄はひとり離れて、速水姓になる前に母と住んでいた離れに足を運んだ。
随分昔に建てられた離れは住む者がいなくなっても取り壊されることなく手入れがされている。

先客がいた。
じいやの朝倉だ。
英介よりも少しばかり年長の執事も、めっきり歳を取った。
けれども、まだまだ若い者に速水家のことは任せられない、と全てのことにおいて取り仕切っている。


朝倉は離れの雨戸を開け風を通し、縁側で庭を見ていた。
そこからは池が見えて、鯉に餌をやる英介とマヤの姿を見ることが出来る。
そして、花菖蒲が満開だった。

「お邪魔してもいいかな」
真澄が声をかける。朝倉はにっこりと微笑み、縁側に腰掛けるよううながした。

「速水家に、こんなゆったりした日曜の午後が訪れるとは、思いませんでしたな」
朝倉がゆっくりと話し始めた。

「若奥様は…始めこそ驚きましたけど、やはりまちがいの無い方でした」

真澄が不思議そうに「始めって…いつのことだ?」と聞く。

「初めてこのお屋敷に担ぎ込まれた…高校生の頃ですな」
「そんな昔のことか」
真澄は可笑しくなって笑った。

「そりゃ、真夜中に若が血相を変えて医者だ着替えだと大騒ぎされて。
そうかと思えばドッスンバッタン暴れてあげく脱走。とんだ小悪魔だと」

「そうだな、小悪魔だな」クスクスと笑いが止まらない。

「しかしこうして…すったもんだの末に若が選んだ唯一の女性、ですからな。
苦労して手に入れた天女様は・・・」

「本当に、苦労をかけた、じい。あなたにはこんな歳になっても迷惑をかけるばかりで」

「いいのですよ、若。若が選ばれたマヤ様は…どこか、奥様に似ていますから…当然です、と言いたかったのです」

突然に母の話題になったので、真澄は戸惑った。

「ここに座ると、いろいろと思い出されるのですよ。花菖蒲が咲くと特にね…」

いつもは寡黙な朝倉が少し遠い目をして語り始めた。






奥様と若が…藤村さん、としてここに住むようになったのは、若が6歳になった頃でしたか。
物静かで目立たず、いつも微笑みを絶やさない文さんと、元気が良くて利発な可愛い子、と
使用人の間にもすぐに慣れてかわいがられていましたな。

文さんは仕事が完璧な人でした。それでいて表立つことはせず、ひとり息子を心底愛している人でした。
使用人の中には、どうにかして御前に気に入られて良い待遇に収まりたいのか
ヘンに色目を使ったり誘惑まがいの事をしたりする素行の悪い女もいたものです。

御前が若の利発さに目をつけられたのはもちろんですが、
文さんのお人柄の良さも、御前の信頼を勝ち得たひとつだったのです。
初めて養子縁組の話を文さんに持ちかける時、若をひとりだけ養子にする選択肢もあったのですが
御前ご自身が、文さんも妻に迎えたいとの事だったのです。

御前の教育は徹底されていました。そこまで厳しくなさらずとも、と何度も思いました。
奥様には御前から徹底教育をするので黙って任せて欲しい、と常々言っておられたようです。

奥様も心の中で葛藤があったのでしょう、住まいを母屋に移してからも
時々ここに来て物思いにふけっておられました。
時々、私も相談を受けたこともありました。
こうして縁側で並びながら、池の向うで躾けられている若の様子を感じながら
「御前を信じましょう」とお話したものです。

ただ一度…あの奥様が御前を激しく責められたことがあります。
おわかりですね…10歳のあの事件のときです。
こんなふうに見捨てられるなら、真澄をあなたに任せるのではなかった、と。
御前はこう仰ったのですよ。
「あの子は思っているよりもずっと力がある。きっと自力で帰って来る。わしはそう信じている」
そして奥様に土下座をされたのです。
「しかし、お前にはとても心配をかけた。傷つけた。申し訳ない。どう謝っていいのかわからない」と。

奥様は、そこまでした御前を見て、受け入れたのです。許す、と。
表立っては夫婦としての姿は見られないお二人でしたが、
いつしかしっかりと通じ合っていたのでしょう…私たちの知らないところで。

その後すぐです。奥様が花菖蒲を植えられたのは。
縁側から池をとおして母屋を臨むこの位置に。
花言葉を、ご存知ですかな?
「あなたを信じます」なのだと、奥様に教えていただきました。

火事があって奥様が入院生活になってから、御前は狂ったように仕事に埋没されました。
どこかで奥様に対して顔向けできない気持ちもあったのではないかと思います。

奥様が寂しそうにされている時、時間があれば私も話し相手にならせていただきました。
若も会社と学校で忙しくなかなかゆっくり時間がとれない、
あの頃、藤村だった頃の夢をよく見るけれど
そんな時は菖蒲の池を見るのだ、と。
あなたを信じます、あなたを信じます、と。


奥様は…本当に若を愛しておられました。
若を教育する御前を信頼し、愛しておられました。
女性として、本当に芯の強い方だと…。

こんな若と御前の今の姿をご覧になったら…よほど喜ばれているでしょうに。
…早すぎます。あの方には…もっと永く…





朝倉の目に、涙が光っていた。
真澄の目にも、同じく。

「母が、そんなふうに話していたとは…知っていればもう少し、おれという人間も違っていたかもしれない」

「どう、違うのです」朝倉が聞く。

「母と義父の間に夫婦の情があるなんてこれっぽっちも思わなかった。
 おれは義父にそんなふうに思われていたら、復讐心なんて起きなかった。
 見合いをして愛の無い結婚をしよう、とも思わなかっただろう。
 母が…もう少し母の話を聞いてあげておけば…」

真澄は悔しくて情けなくて涙を流した。母が…母がたまらなく恋しかった。

ともに涙を流している朝倉に向き直り,礼を言った。

「ありがとう。母の話を聞いてやってくれて。母もじいに随分救われたと思う」

「いや…私など。それよりも、天女様を若が連れてこられたので…御前のご機嫌伺いも
若への心配もお役免除になりましたからな。奥様も喜んでおられるでしょう」

義父についてからずっと独り身の老人がほっとしたように笑う。

真澄はふと気になって朝倉に聞いた。


「じい。・・・失礼かと思うが・・・ひょっとしてじいは、母のことを…?」


朝倉は、ふ、と笑って

お得意の苦虫顔をしながら立てたを口元にびたっ、と当てて


「誰も知らない昔話です」と、わらった。
















いかがでしたでしょうか?
かなりな捏造かもしれません。
ギスギスした速水家が、文さん・マヤさんによって潤いがもたらされたら。

「父の日」。
英介さんも、お妾さんの子だったとのことなので、
三者三様に「父性」にも「母性」にも欠けたところのある者同士、なのかもしれません。

しあわせになって欲しいです。







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2011-06-26 Sun 19:54 | | #[ 内容変更]
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2011-06-27 Mon 13:07 | | #[ 内容変更]
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2011-06-28 Tue 02:39 | | #[ 内容変更]
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2011-06-30 Thu 12:35 | | #[ 内容変更]
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