星の囁き 3
秋の虫のコラールが二人を包んでいる。
強く抱きしめられた腕の中で、マヤは身動きひとつ出来ないでいた。
愛している…マヤを愛している…。
確かめたくて確かめられなくて
言いたくて言えなくて
聞きたくて聞くことの出来なかった言葉が、
心のなかで幸せな余韻を響かせている。
「あ…は…速水さん…っ」やっとのことで口から出てきた言葉は、
あまりにマヌケだとマヤは思った。なぜ、「あたしも」って言えないのか。
「黙って…聞いて欲しい…。最後まで言わせてくれ」
真澄は抱きしめる腕を少し緩めた。
「きみと初めて会ったのは、まだきみが中学生の頃だった。
演劇のこととなると、人が変わったように熱っぽい目をする女の子におれは興味をおぼえた。
どうしてそんなに捨て身になってまで熱中できるのだろう、と気になった。
きみが演じる舞台では、自分の魂が身体を離れて、きみの側で同じように演じているような
そこまで感情移入してしまうことが何度もあった。
そんなことは、初めての経験だった…。
芸能に携わる者として、冷徹で客観的であるべきなのに、だ。
きみの演技が上達していくのを秘かに楽しみにしていたんだ。
初めは才能豊かな役者の卵だから気になるのだ、と思い込んでいた。
けれど、それは違った…
自分以外の出演者が出られなくなった舞台…。
台本がすりかえられて、筋書きも知らないまま立った舞台…。
小道具がすりかえられて、泥饅頭までも食ってしまった舞台。
そんな、ありえない状況に巻き込まれるきみを見ておれは取り乱した。
ただ舞台の成功を望んでいただけでは、動揺することはなかっただろう…。
水城君に言われたよ。何故きみにここまでこだわるのかと。
きみに特別な感情を抱くからこそ、取り乱しているのではないか、と。
そしてそれは芸能社の社長としてあってはならないことではないのか、と。
初めは否定していたよ。11も年下の女の子に恋をしている、など。
それでなくとも、おれは人を愛するなどとは無縁だと思って生きてきたからな…」
今までの真澄の心の動きを告白されて、
マヤは生きてきて一番幸せなような…
それでいてむずむずと居心地の悪いような、妙な気持ちでいた。
まさかこの人が、そこまで深く自分を見つめていたとは。
なぜ、「紫のバラの人」の正体が自分だと隠し続けているのか、
その理由も少しわかった気がする…
「いつ…その…」
自分に恋をしている、と気付いたのはいつか、なんて…
そんなずうずうしいことを聞けない、とマヤは口ごもる。でも、聞きたい。
マヤが反応したのに気付いて、真澄はマヤの頭を自分の胸に押し付けた。
髪を撫でる。梳く。
「あぁ…きみの初恋宣言の時には、自分のなかに生まれた感情が何者なのかわからなかったんだが…
本当にきみを愛している、と認めたのは…」
真澄は黙った。それを口にするのは…いまだに心が痛む。
それをマヤに聞かせることは、もっと罪を重ねることになりはしないのか…?
決心したように口を開いた。
「きみの唯一の家族を奪って…きみから演劇への情熱さえ奪ってしまいそうだった、あの時だった…」
マヤがぎゅっ、と拳を作るのを感じた。
「生まれて初めて愛した女を…この手で地獄に突き落とした瞬間に…気付くんだ、愛していると。
おれは、罪深い男だと…自分の生き方を呪ったよ…」
この人は…
愛の告白をする幸せな瞬間でさえ、こんな苦しみに囚われているのだろうか…?
マヤは真澄の心の闇と孤独を思った。
どんなに苦しかっただろう。自分を責めただろう。
それを思うと、心が痛んだ。涙が流れる。
「…すまない…。こんなおれがきみを愛しているなんて、言えた義理ではない…
辛いことを思い出させてしまった…やはり傷つけてしまったな…
おれを憎んで当たり前なのに…」
何故マヤは、この胸に抱かれている?
自分の告白を静かに聞いてくれるのだ?
真澄はだんだんと居たたまれなくなってきた。
「…もう、やめよう…。すまなかった」
抱きとめていたマヤの身体を解放しようとした。
「イヤ…っ!」
マヤは真澄が自分から離れていこうとするのを感じて、しがみついた。
「あたしはここで、とても幸せなんです…!
もっと、ずっと…ここにいたい…あたしを離さないで下さい…!」
「泣いたのは…速水さんがどれだけ自分を責めて、辛かっただろうって思ってなの。
あたしは何も知らずに…たくさん速水さんを恨んでいた…ごめんなさい…ごめんなさい…!」
「でも今は…!いまは、速水さんが好き…速水さんがいてくれなきゃ、あたしはもう生きていけない、って
そう思っているの…ほんとよ、速水さんが、好き、好き、大好きなの…!」
涙に濡れながら懸命に愛を告白するマヤの言葉を、真澄は震えながら聞いた。
阿古夜の愛のセリフではない…マヤ自身の。
拙いながらも、魂からの叫びのような告白。
自然と、涙がこみ上げて来る…。
「あぁ…マヤ…っ!!」
再度真澄はマヤを強く抱きしめた。マヤも真澄を強く抱きしめた。
「いいのか…?こんなおれでも…本当にいいのか…?」
「速水さんじゃなきゃ、だめなの…速水さんだけを、愛しているの…」
「こんなに罪深いおれを…愛していると言ってくれるのか…?」
「何回でも言うわ…速水さんが好き…愛してる」
身体を反転させて、マヤを毛布の上に組み敷いた。
マヤの顔を覗き込む。
涙が幾筋も頬の上に流れていた。
マヤの黒髪が涙の筋にくっついているのを、丁寧に整えてやる。
「おれは誓ったんだ…きみのお母さんに」
真澄の涙も、次から次へと流れている。
「マヤを一生…見守り続けます、って…
きみが、迷惑でなければ…」
「迷惑じゃないです」マヤはふふふ、と笑った。
「じゃ…誓いなおす。
マヤを…愛し続けます。…いいか?本当に」
「…迷惑じゃ…ナイ…です」
お互いに見つめ合う。
もう、離れることはできない。
引き寄せられるように出会ったふたりだが
こうして同じ気持ちで見つめ合えるようになるまでは幾多の障害があった。
乗り越えたからこそ。
そうしてめぐり合い、結ばれたからこそ。
「マヤ。愛している」
「速水さん…愛してます」
真澄の指が頬から顎にすべる。
マヤがそっと瞼を閉じた。
唇が重なったとき、
長く長く尾を引いて夜空を翔ける星が
二人の願いを拾いあげていった。
おしまい。
恥ずかしいんですが、今回初めて、自分で書きながら涙ぐんでしまいました><。
ひゃーーーー、恥ずかしい!(ドコで?!とか突っ込まれたらどうしよう)
あれ?でもなんかソコで終わっちゃうの?って声もちらほら聞こえてくるよ~><
いてっ!石飛んできたよぅ^^;;
ああ、チャットではイロエロめっちゃ喋ってるのに
最近18Rなオハナシが無いじゃん!!って思ってる?
そろそろ、って思ってる?
そですね、そろそろ、でしょうかね^^;
リア多忙もそろそろ落ち着いてきましたので、
またオハナシ作りに心傾けて参りたいと思っております^^
たくさんの拍手とコメントメッセージ、ありがとうございます!!
お返事させていただきますので、もそっとお待ちくださいね♪
それでは今宵はこのへんで♪
梅雨明けは嬉しいケド(主婦的に)
熱中症などには十分お気をつけ下さいね~~
明日もいい日でありますように☆☆☆彡
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