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日々の泡沫
2011-07-25 Mon 02:08
生ビールの恋しい季節、いかがお過ごしでしょうか!

さて今日はステキ絵師サイト様宅にある、コラボイラストにいんすぱいあされて出来たお話です。



お話の最後にご案内しますので、飛んじゃって下サイね。








                    日々の泡沫



 仕事を終えた後、アルコールを口にするのはいつから始めた習慣だろう。
義父についていた頃…義父の秘書をしていた頃…義父の代理をしていた頃…社長に就任した頃…。
思い出せない。
人間関係を見、その弱点をさぐり、一歩先を読み…陥れるようにして仕事を進める。
自分の心を開いているように装って近づき、最後見事に裏切って奪う。
そんな仕事の仕方をするのが、企業を大きくするのだと教えられ、それを実行してきた。

当然、恨まれる。
公衆の面前で呪いの言葉を吐きながら外に引きずり出されていく
自分より年上の経営者を腐るほど見てきた。
何とも思わなかった。

ただ、酒の量が増える。
アルコール度数が高くなる。少しも酔わないのだ。
カウンターに腰掛けて腑を焼く。
余計な口を利かないバーテンダーを相手に、ひとり。
若いくせに、こんな店で呑んでいる。
どうせ世間を知らない成金のドラ息子かなんかだろう。
そんな聞こえよがしの悪口をBGMに聞きながら。

世間を知らない。
ああ、かえって俺は、世間ってどんなものだろうと
あの時、母子のままで成長していたら知ることのできた世間ってものを
じっくり楽しんで知りたかったとさえ思う。

サラリーマンが仕事帰りに大勢で寄るような店には行く気がしなかった。
奴らは寄ってたかって自分の失敗を他人のせいにする為に
酒に自分を慰めてもらうために
憂さを晴らしにあんな騒がしい呑み方をするのだ、と思っていた。

俺には仲間がいない。

負け犬の大合唱を聞きながら酒をのむなんて、まっぴらごめんだった。



…しかし、俺は恋をした。


忘れようとして空回りをするほどに、酒の量は増える。
自分の胸の中だけでは収まりきらない、
切なさや後悔や迷いを…誰かに聞いてもらいたい。
秘書に尋ねると「少年のようだ」と笑われた。

仕事の上では、俺は勝者かもしれないが…
俺も情けないただの負け犬にすぎない、と気付く。
温かいものが欲しい。包んでくれるような、温かさが。

強く干渉して来る家や婚約者から開放されたくて、マンションで寝ることが多くなった。
その近くに小さいながら常に満席、という居酒屋を見つけた。
少し前まで絶対に行くことなど無いはずのその店に通うようになった。

常に満席だから、当然サラリーマンの憂さ晴らしで溢れている。
俺も歳をとったからか、どうにも出来ないことへの悲哀を知ったからか、
そういった話も聞けるようになった。
仕事の帰りにそのまま行って、衣装の違いに引かれてからは、
一旦部屋で上着とネクタイを替えて行く。
そこまでしても立ち寄りたくなる理由…が、確かにあるのだ。

主人が、なんだかあの人に似ているのだ。
月影千草を支え、守っているお付きの人…源造さんに。
四角い輪郭で、平べったい団子鼻で、ちっちゃい目で。
料理は懐かしい味がする。特に出し巻き卵は絶品だ。
…母の。…母のだしがよく効いた出し巻きににているからだ。

酒はもっぱら、生ビールをたのむ。ウイスキーは銘柄が限られているし…
忙しい主人の手間をとらせないのは、やはり生ビールだろう。

出し巻きに、小芋に、鯖の味噌煮。
完全にオヤジメニューだが…それが落ち着くようになってしまった。
隣の大激論に心の中で突っ込みをいれたり
他人の失恋話にうんうん、辛いよなぁ、と無言でうなづいてみたり。

みんな、一生懸命だ。必死で幸せになりたい、と思っている。

小さな愚痴や家族のささやかな自慢やちょっとした将来への不安を
細かい泡といっしょに流し込む。
軽やかに喉をすぎる…それではらわたを焼くほどでなく、
あくまでも軽やかに。

「・・・・あぁ、この一杯のために、生きてるなぁ」

何度聞いたかわからないこの台詞を、時々俺も口走るようになってしまった。



珍しく客の少ない日に、主人が「サービスです」と出し巻きを出してきた。
「や、こんなことされちゃ、不公平でしょ」と遠慮すると
「お兄さん、やっとここに馴染んできましたね」と言われる。
「始めは…すごい近寄るなオーラでしたからね。無言の圧力と言うか」
恥ずかしくなった。
「最近…いいことありました?」
なんだかお見通しだ。

「諦めていた恋が…ひょっとするとね」
「ああ、それで」


・・・それ以上は聞かないのか。


「女のひとには・・・かないませんよ、男は」
「そうですね」
「どんなにエライひとだって、結局は女のひとの股から生まれでてくるんだ。
 そのへんをわかっておかなくちゃ、男なんて情けない存在なんだ」
「・・・・」
「それを忘れてエラソウなこと言ってる間は、男もまだ青二才ってことですよ」

「男なんかより、ずっと大人でずっと悟っていてずっとわかっている。
それでいて何も知らないふりをして、男を値踏みするんでさ。こわいですよ、女の人は」

いろんな女の人の顔が浮かんだ。確かにコワイ。

「ちゃんと、ごめんなさい、ありがとう、言ってくださいよ、女のひとには。
愛してるから、だけでは伝わりませんからね」

「よく…知ってるんですね、女の人のこと」

「そらぁね」

主人はふっと遠い目をした。

「長い間…付いていましたからね。素晴らしい女性でした。
全てわかっていながら、知らないふりをし続けてくれました。
そうして傍にいさせてくれましたからね…それでも十分にあたしゃ幸せでしたよ」

「切なくて…苦しくはなかったんですか」

「どうして!」
主人は目を丸くする。チッチャイ目がかわいい睫毛で覆われている。

「あの人は、あたしを捨てずにいてくれた。
ひとりで逝かずに、頼ってくれた。それがどんなに大きな愛情か、って思えば…
幸せすぎるでしょう…ま、凡人にはわからん玄人の恋ですわね」

そう言って、団子鼻を膨らませてドヤ顔になった。

「お兄さん、こう言っちゃ失礼だが…男前だが恋は初心者だね?」

俺は噴き出した。まったくだ。

「マスター、完敗です。おごります。乾杯しましょう」

「うまいこというね。ご馳走になりますよ」



黄金色の底から、幸せの小さな泡沫が繋がってあがっていく。
小さな泡沫がやがて細かな泡の層になって、唇を覆いはじけていく。

すべては甘い夢まぼろし。くるしみも、かなしみも。

俺はもういちど、つぶやいた。


「ああ、この一杯のために、生きてるなぁ~~~!」

  ↑ここからステキイラストにじゃんぷ!




            おしまい。


工藤えく様・Kaorian様…スミマセン、勝手に乗っかってしまいました!ゆるしてぇ~~!


・・・ああああ、生ビール飲みたくなりましたねえ!
なんだかちょっぴり、切ない気分になりました。

頑張れ、速水真澄!!




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この記事のコメント
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2011-07-26 Tue 01:29 | | #[ 内容変更]
Re: ○く様
○くさま~~返事が遅くなりました!
気に入っていただけてたら感激です~!
お話がびび、と降りてくる瞬間って気持ちいいですね!
○く様とかお○ゃん様のイラストを見て、
「ああ、マスが高いチャージ払ってイジイジ飲んでるのってかわいそう!夏はやっぱりごきゅっと生じゃろ!」っと思ったら、
ヘレンの雷落ちてきた状態(ウソウソ)になりましたよ!
こちらこそ、ステキなイラスト、ありがとうございました!
これからも遊んでやってください!
2011-07-29 Fri 23:40 | URL | はね吉 #-[ 内容変更]
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