舞台が跳ねたら 3
「あ、速水さんお醤油つけますよね?」
マヤは二人分小皿に醤油を注ぎ、ひとつを真澄に渡した。
いろいろとサービスしてくれるマヤに、真澄は甘い妄想をする。
・・・もしも二人が一緒に住むという状況なら、こんなふうにおれの世話をしてくれるのだろうか・・・
つい、そんな幸せを噛みしめてしまい、表情に出てしまう。
「何ニヤニヤしてるんですか?」
「あ、あぁ、いや」
ついいつもの癖で気持ちを誤魔化そうとしてしまう。
「はい、茶碗蒸しきましたよ」
けたたましい電子音とともに、ベルトコンベアにのった茶碗蒸しが到着する。
スプーンを添えて真澄に渡してくれる。
あぁ、そうだ。もう自分の気持ちをマヤは知っている。
こんなときはきちんと嬉しい気持ちを伝えなければ。
「ちびちゃんがこうして優しくしてくれると、凄く嬉しいよ」
「え?」
「きみはいい奥さんになりそうだ」
マヤは焦った。今までの真澄とのやりとりからは考えられないような話題だ。
いつも以上に真澄の意図がわからない。
からかってる?ねぇ、イヤミを言ってからかってるんでしょ?
そう考えているうちに顔が真っ赤になってしまう。
いけない、真に受けて恥ずかしがってるなんて思われたら困る!!
「だっ、だ~れが速水さんの奥さんなんかなるもんですか!!」
はっっ。
真澄が固まっている。こころなしか青ざめている・・・かも。
無理もない。
まるで天国へ誘われるような幸福感を味わい始めていたところで
蜘蛛の糸が切れたかのように一気に地獄に突き落とされたのだから。
涙さえ滲みかねない。
さすがのマヤもなんとかフォローをしなければ、と焦りだした。
「は、は、速水さんも、幸せな結婚生活って夢見るんですか?」
「例えば、こんな感じ?ほら、アナタ、あぁ~~~~~~~ん」
マヤは自分の鉄火巻きを真澄の口の前に差し出した。
真澄の唇がキュ、と前に尖った。
「イラナイ」
「えっ」
「どうせ、おれなんか」
「ええっ」
目の前の、あの「速水真澄」が拗ねたように凹んでいる。
自分が放った照れ隠しの言葉が大失敗だったことに気がついた。ヤバイ。これは非常にヤバイ。
マヤは負けずに真澄の唇に鉄火巻きをぐいぐい押しつけた。
仕方なく、半ばヤケ気味にばく、と口に入れる。
「速水さんみたいにわかりにくい人、よっぽどの人でないと奥さんなんか務まりませんよ。
でももし、あたしが売れ残って、その時も友達でいられてたら考えてあげてもいいです」
顔を赤らめながらボソボソとフォローする。
あぁ、いったいあたしナニ言ってるんだろう・・・
真澄は傷ついてはいたが、マヤがそうしてフォローをしているのを嬉しく見ていた。
こんな感情の行き違いや小さな諍いでさえも
恨まれていることに比べれば幸せな瞬間だと思えた。
「・・・案外旨いな、この鉄火巻き」
「あ、あ、そ、そうでしょ?案外旨いんですよ~~~っ」
ホッと息を吹き返したような表情をするマヤを見て、真澄はクス、と笑う。
「ね、ここの茶碗蒸しもばかにできないですよ!食べましょ!!」
「ああ、本当だ。出汁がしっかりしている」
「でしょでしょ?あたし、茶碗蒸し大好物なんですよ~~~~」
マヤは真澄の様子が戻ったので安心してニコニコしている。
「マヤ・・・ほんとにかわいいな」
もう、気持ちを誤魔化すことなんか絶対にするまい。
素直な気持ちで、マヤが好きなんだとわかってもらいたい。
いくら無防備で情けなく見えようとも、
このチャンスは絶対に生かさなければ・・・
マヤは茶碗蒸しを吹き出しかけた。
マヤが戸惑うあの笑顔でそんなことを囁かれて、
今度こそ真澄が本気で口説きにかかっていると理解した。
だからといって簡単に骨抜きにされてしまうわけにはいかない。
母さんに・・・月影先生に、申し訳が立たない。
真っ赤になりながら
「もう、速水さんそんな調子のいいこと言って。あたしは簡単に口説かれたりしませんからねッ」
そう言って軽く睨んだ。
「そうかぁ・・・ガードが硬いな、ちびちゃんのくせに」
「くせに、は余分ですよッ」
真澄はやれやれ、というように笑いだした。
まだ・・・まだ、焦る必要はない。
やっと自然に笑いあえるようになったのだから。
こんなひとときが積み重ねられることが、恋への一歩一歩なのだから・・・
真澄はとっていた中トロをほおばる。100円なら仕方がない、と思う。
マヤの笑顔がご馳走なんだから、食事の味がどうこうなどは関係ない。
またけたたましい電子音とともに、ベルトコンベアの上段に何かが滑り込んできた。
新幹線に乗った寿司皿だった。
真澄はギョッとした。
「昨今の回転寿司は回転せずに来るのもあるのか!!」
「注文したお寿司は専用の新幹線で来るんですよ!楽しいでしょ?
速水さん赤貝好きって言ってたから、注文しておきました。はい、どうぞ」
「マヤのそれはなんなんだ?」
「うふふ~CMでながれてたから、食べたかったの!ばるんばるんの生えび!」
「ば・・・ばるんばるん・・・?」
喜んで食べているマヤには申し訳ないが、その形容はどうか、と思った。
ナンダカ変態ちっくではないか?
口に運んだ赤貝が、まぁまぁ旨かったので許す・・・
続く。だらだらと。
自演デスね…><
「ぷりっぷりの・・・いや、ぶりんぶりんの・・・いや、ばるんばるんの生えび~~~!」っていうCMだったんです。
思いっきりコーヒーを噴き出してしまいましたよ~~~~
なんだか楽しくなってきちゃって、だらだらだらだら書いてしまいました~~~
オチ無しになっちゃったらごみんなさい><
それでは今宵はこのへんで。
明日もいい日でありますように…
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