ひとつのまこと<続編>
上試演が終わって審査発表まで、中1日を挟むことになった。
亜弓さんにしても僕にしても、満身創痍の状態で試演に臨んだとあって、審査が困難を極めているらしい。
…僕自身は、十分満足のいく演技をし尽くした、と思っている。
心身の痛手を逆手にとって、僕にしか出来ない一真を作り出したと思っている。
もちろん、マヤちゃんの阿古夜あって、の話だが。
もうこの際、どちらが選ばれても後悔はない。たった一度でも、満足の出きる舞台だったと思う。
マヤちゃんには、試演を待つことも無く、僕のほうから「待つ」約束を反故にしてもらった。
細かいことを聞きだすことなく、僕が謝るかたちで。
何かを言いたげだったけれど、「勘弁して」と言ったら
「ごめんなさい」と涙ひとつ零して
あらためて、一真として、阿古夜としてよろしく、と握手を交わした。
でもひとつ、あの人には一言いっておきたい、と思っていた。
あの日以来、何やら超多忙を極めているようで
まぁいつもの事だから気にも留めなかったが
知らないうちに、「婚約解消か?!」なんてことがスポーツ新聞にまことしやかに載るようになっていた。
・・・マヤちゃんのこと、お嬢さんにばれたのかな・・・
試演に、あのお嬢さんは来ていなかったらしい。
試演以外の情報を狙う記者達を巻くように、あの人もアンコールが終わらぬうちに姿を消していた。
打ち上げで大騒ぎして、浴びるほど酒を呑んで(解禁日、だった)
黒沼先生にご褒美をもらって(!!!!)
なんだかわけのわからないうちに部屋に帰っていた。
やっぱり、気になるので一度会社に電話をしてみた。
「本日17時、お越しいただけますか?」
驚いたことに、時間をとってもらえた。
・・・なんか、一戦交えることになるのかな・・・
いや、あくまでも友人として。その態度でいくならこわいものはないさ。
つづく。
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