2ntブログ
 
スポンサーサイト
-------- -- --:--
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
別窓 | スポンサー広告 | ∧top | under∨
ひとつのまこと 続編 下
2011-04-22 Fri 10:30
ひとつのまことの続編、第2回です。


なんかちょっと男前、です。


     ひとつのまこと<続編>


                          



社長室に通されて、珈琲が出てきた。
「試演、本当にようございましたね。わたくし、感激いたしました」

「水城さんも観に来て下さったんですか!」

「はい。ちょうど一席、キャンセルになったものですから。社長秘書特権ですわ」

それって…。

フフ、と水城さんは笑って「もう少々お待ちくださいね」と場を外した。



速水さんが部屋に帰ってきた。「お待たせして、すまなかった。」
「いえ、こちらこそ急にすみません。お忙しいのに」
「いや、疲れているだろうに、ここまで来させるなんてな。悪かった。」
「・・・そんなことで、謝らないで下さい、速水社長。」


僕はすでに臨戦態勢だ。


速水さんはふと怪訝な顔をして、僕を一瞥した。
そしてすぐ、穏やかな顔に戻って
「昨日の試演は、本当に素晴らしかった。おれは初めて、舞台を見て泣いたよ」と言った。

「ありがとうございます。社長にそんな風に見ていただけるなんて、光栄です」

「…いい役者に、なったな、桜小路くん」

…正直、悔しい。かなり悔しい。でも、この人に認めてもらえたなら、良かったのかもしれない。


「マヤちゃんの・・・それから、あなたのお陰です」

「…言葉の割には、眼が鋭いよ、桜小路くん。…何がいいたい?」



「事故にあった日…僕は見たんです。マヤちゃんとあなたが、抱きしめあっているのを。」

速水さんの瞳に、警戒の色が浮かぶのを見た。

「何を言い出すんだ」
「誤解しないで聞いてください。僕はそれで吹っ切れて、あの一真を掴むことができたんです。」
「・・・・」
「速水さんがご存知かどうかは知りませんが、僕、彼女に交際を申し込んでいました。
試演が終わるまで返事は待って欲しい、と言われていました。
彼女には本当に愛している人がいる、ということは知っていましたが、自分が彼女に一番近いのだから
希望は持ち続けよう、って。」

速水さんは、眼で「いいか?」と聞いてきて、タバコに火を点けた。



「芝居で恋人同士を演じる場合、擬似恋愛をするとはよく言いますが、
僕は本当に恋をしてしまっていたので一真の恋の理解を客観的に出来なかったんだと思います。
失恋をして、自分と彼女を切り離して初めて、阿古夜と一真の恋について考えることができました。」

「それにしては…大胆なシーンが多かったな。
おれは舞台に駆け上がって君を殴りつけたい衝動と何度闘ったことか」


そう言って、あ、と我に返って耳が赤くなるのを、僕は見逃さなかった。


「あれは…僕がこんな身体で動きがどうしても小さくなってしまうので、大胆にするほうがいいだろう、と
演出プランを変えたんです」

「・・・速水さん・・・妬きましたか?」

速水さんはまだ長いタバコを乱暴に灰皿にねじ込んでドカ、と背もたれにふんぞりかえった。

「だから、何なんだ。」


「じゃあ、良かった、と思って。」
「だから、何なんだ!」



「僕、マヤちゃんが初恋宣言した里見くんに、別れたあとに文句を言ったことがあるんです。
彼女が選んだ人だから、間違いなく彼女を守っていってくれるものだと思ってあきらめたのに、って
僕なら離れたりはしなかったって。
そして、彼以上に大きな役者になってやる、って誓ったんです。」

「まさか、彼女をあなたにさらわれるとは思いませんでしたよ。
上演権がらみで騙されているんじゃないか、と思ったりもしました。
でも、いまのあなたの態度を見たら、大丈夫なのかもなって思えました。」


「…まさか俺も、君にそんなことを言われるとは思わなかったよ。
君も大人になったものだ」

速水さんが、怒りを鎮めようとしているのはよくわかった。

「君…憶えているだろうか。マヤが嵐が丘のキャシーを演じた初日だ。」

あらためて新しいタバコを取り出して、火を点ける。

「真島良の演じるヒースクリフを情熱的に愛するキャシーの姿を見て、君は席を立ってしまった。
俺は君に言ったな。彼女を愛しているのなら、どんなことがあっても最後までみていてやれ、と」

「僕の気持はあなたなんかにはわからない、と言いました」

「俺は、最後まで見たよ。俺は、あの子の舞台はどれも、どんなことがあっても、最後まで見た。
それが、君と俺との違いだ」

「まさか、速水さん・・・」

「あの子は俺を心底憎んでいたよ。笑顔を見せてくれることも無かった。
どれだけ想いを注いでも報われることは無い、とわかりながら
それでもあの子から眼を離すことが出来なかった」

「この際、同志として白状してしまおう。
一度は諦めようとして大きな過ちも犯してしまった。
どうせ結ばれない孤独の中なら、生きながら死ぬこともあるのだと悟ったよ」

「いや…違うな。あの子に知り合うまでの自分はすでに生きながら死んでいたんだろう。
あの子は俺にとって、まさに『生きる』そのものだったんだ。
あの子にあって、俺は生き返ったのかもしれない・・・」

なんという、孤独。
なんという、愛の深さ。
ひと言言ってやろう、なんておこがましいと
僕は激しく、感動していた。
僕のつけいる隙なんて、無かった。初めから。

何も言わなくなった僕を見て、「喋りすぎだな」とタバコの火を消した。

「僕…彼女から、僕のことは『舞台の上での、魂の片割れ』だって言ってもらってるんですが…
すみません・・・ここで殴ってもらっても、いいです」

はははは!と速水さんが笑い出した。

「あの子が言うんだから、そうなんだろう!それ、すごいぞ!
速水真澄の花よりも威力があるぞ!
いや~~、そのほうが妬けるな、実際。
しかし、変に誤解されると困るので、キャッチフレーズには使わないから。他でも言うなよ!」

つられて、僕も笑った。涙の混じった、へんな笑い方になってしまった。

「僕が言うのもへんですけど…マヤちゃん、幸せにしてあげて下さい。守ってあげて下さい。
きっと、それが出来るのはあなただけのはずですから…」

彼女のことで泣くのはもう無い、と決めていたのに、涙が止まらなかった。
これは恋の涙じゃない、すでに。
ふたりの幸せを願う、感動の涙だ。

速水さんは突然、僕の頭に拳骨をグリグリグリ、と押し当てて

「これで、勘弁してやる」と、笑った。






       おしまい。











あとがき。

キャシーのくだりを書くために、コミックス読み出したら止まんなくなってしまいました!
麻薬のような「ガラスの仮面」です。

もう、セリフの多いこと、多いこと!!
ほんとに、「脚本」って言ったほうがいいみたい。

ちょっと「うざくない」桜小路くんはどうでしょう?
あれ?上から目線が気に食わない?ウザウザMAX?
あ、確かに。
すみませ~~~~ん!逃げっ!!
関連記事
別窓 | ひとつのまこと | コメント:0 | トラックバック:0 | ∧top | under∨
<<拍手御礼申し上げ候 | はね吉 がらすの森 R-18 | ひとつのまこと 続編 上>>
この記事のコメント
∧top | under∨
コメントの投稿

管理者だけに閲覧
 

この記事のトラックバック
∧top | under∨
| はね吉 がらすの森 R-18 |