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白球に愛をこめて 2
2011-10-02 Sun 02:27
パリーグの優勝が決まりましたね。おめでとうございます~



続きからどうぞ。







               白球に愛をこめて 2


 始球式の本番を3日後に控えて、マヤも気合が入ってきた。
1ヶ月間ほぼ毎日、真澄との練習を積んできたおかげで、
始めは3mだった距離も正規のマウンドからホームの距離18mほどに伸ばすことができた。
子どもの頃から「紫のバラの人」としてマヤを擁護し支えてきた真澄だったが
自分が直接指導をしてマヤが実力をつけていく、といったことは初めての経験だったので
少々弓なりになっていても18m先から投げたボールをグローブに受け止めることが出来たときには、
見事完全試合を成し遂げたピッチャーと抱き合うキャッチャーの気持ちになり、

マヤのもとに走り寄ってきつく抱きしめてしまったほど、嬉しかった。

マヤは初めての始球式に挑戦、ということで
ある球団のルーキーに投球を指導してもらう、という宣伝を兼ねた取材の仕事に向かった。
どうしても同席したい真澄だったが、外せない会議があり、マヤとマネージャーのみである。

取材には新聞・雑誌のほかにテレビ局も何社かあった。

初めてブルペンに通されて、指導をしてくれる藤田投手と握手をする。

「初めまして。北島マヤです。今日はご指導よろしくお願いします」
「はじめまして、藤田です。ぼく達 実はタメなんですよ」

同学年、と聞いてマヤは急に藤田投手に親近感を持った。

「えっ?本当ですか?あたしよりずっとオトナに感じますよ!」
「いや~マヤちゃんこそ、ぼく見てましたよ、『天の輝き』」
「ひゃぁぁ、なんだか恥ずかしいなぁ」
「当時のぼくに教えてやりたいですよ~!お前は将来佐都子に野球を教えるんだぞ、って。自慢できます」
「でも藤田さん、亜弓さんのファンなんでしょ?知ってますよ」
「えっ!誰だ余計なこと言ったの!」
「気にしないでいいですよ~!遠慮なくしごいてくださいね!」

始めは軽くキャッチボールで…と始めた練習で、藤田は思いのほかマヤの投球がしっかりしているので驚いた。
聞けば今日まで毎日キャッチボールをして、どうにかこうにか届くように仕上げて来た、と。

「1ヶ月?!」
「うん、そう。社長がムキになって教えてくれて」
「それにしても、飲み込みが早いんだろうな。ぼくとも投げてるうちにどんどん良くなってるよ」
「えへへぇ、そお~?」
「ちょっと球の持ち方変えたら、案外もっといい球投げられるんじゃないのかなぁ」

走り寄ってきた藤田が、マヤの手を取って指の形や球の持ち方を説明する。
取材のフラッシュがどんどんたかれ、仲良さそうにするふたりの様子を撮影する。
投球フォームも見よう見真似で投げるマヤ。
あはは、と笑いながら受ける藤田。
マヤは短時間で投球を身につけていく。
同学年というよしみでマヤと藤田は急速に親密になっている。
異性とするキャッチボールがこんなに楽しいなんて。藤田は感動していた。
マヤはマヤで、さすがプロ野球選手!指導もわかり易いしコツがすぐ身につくみたい、と感激していた。

最終的に藤田はキャッチャーミットを持ち出し、本番さながらの投球練習にまで時間を延長して取り組んだのだった。
お約束の囲み取材でお互いを誉めあい、楽しく練習出来ました、と握手をしながらピースの写真で終了した。

お疲れさまでしたぁ~、とブルペンから出ようとするマヤを、藤田が呼び止めた。

「あの、マヤちゃん、本番までは時間とれない?」
「え、どうして?」
「もうちょっと練習出来たら、もっとずばっと決まるんだけどなーと思ってさ」
「うん、明日午前中空いてるけど」
「ラッキー!ここに来れるかな」
「うん、1時間くらいなら大丈夫だと思う」
藤田はグッ、とガッツポーズをしてじゃ、9時に、と言って別れる。


翌日のスポーツ誌や朝のニュースワイドショーで、ふたりの様子が大々的に報道された。

「恋の延長戦」

スポーツ誌をワナワナと震える手で読んでいた真澄が青筋をたてていた。
「どういうことだ」
「マヤはどこだ」

マネージャーが連絡を受けて震え上がる。
急に午後の仕事に入る前に投球練習をする、と連絡があった、と答える。
「どこだ!」
「○○球場の練習場です…!」
「君は午後の仕事場に直接行ってくれ。マヤはおれが連れて行くから」

ふたりきり、というわけでもなく
お互い純粋に「投球練習」をしていた。
「マヤちゃん、『野球○の詩』って漫画、しってる?」
「しらな~い」
「女の子がプロ野球の投手になって活躍する話もあるんだけど」
「へぇ」
「マヤちゃんなら、実写版の○原勇気役、出来るよ~きっと!」
「面白そう!オファーが来たらあたし絶対するかも」
「またコーチしてやるよ」
「コーチじゃなくて、現役投手頑張らないとダメだよ!」
「キビシイなぁ~!」
「あはは」

マヤの投球フォームもなかなか美しくまとまってきた。

「ね、球の持ち方変えたら、カーブとかフォークとか投げられる?」
「あのね、女優さんがそこまでのめり込むなよ。ヘンな筋肉ついちゃうよ」
「藤田君そんなとこに心配してくれちゃうの?繊細~~!」

ちょうどそこに、白目青筋社長がやってくる。
マヤの名を呼んだわけでもないのに、マヤにぶるっ、と悪寒がした。

「あの、さ、マヤちゃん…」
「ん…」
「そろそろ、おしまいにしようか」
「ん…そのほうがいいかも」
「なんか急に空気が重くなったような気がするんだけど」
「そだね…ゴメン藤田君、しばらく連絡とれないかもしれない」
「うん…おれも敵を作りたくないし」
「今日は、ありがとね」
「明日…がんばって」
「あ、ありがと」



ブルペンの隅に、圧倒的な青い炎を背負った社長を見つけた藤田投手。
自分にロックオンされた視線に耐え切れず、190センチの体躯を折りたたむようにして
すごすごと逃げていくのであった…

さて、明日はとうとう本番である。
真澄はちら、と見たマヤの投球が恐ろしく上達しているのを認めて…
不機嫌が倍増していた。おれが、育てたと思っていたのに。
あんなに下手っぴだったのを投げられるようにしたのはおれなのに。
およそ、今日の新聞のように藤田投手の手柄になって
ついでに恋の噂なんかをでっちあげられるのだ。

「あのな、明日の衣装」
マヤはビクビクしている。
「え?あ、ど、どんな衣装で投げるのかな?た、たのしみ~~~」

「紅姫の打掛でいこうか」


げ。
あれだけ練習して、あれだけ本格的に投げられるようになったのに。
そんな恐ろしく投げにくい衣装でいけ、というのかこのヤキモチ焼きは。

つい、ガックリとうなだれたマヤ。

その様子を見て、まだ不機嫌の治らない真澄は

「ぷん!」とマヤのおでこを小突いたのだった…




        つづく!


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