ひとつのまこと 1満開の、梅の花。1本の古木の梅のもとで、僕は笛を吹いていた。
静かだ。
小川のせせらぎと、笛の音だけ。
ここは、初めて『紅天女』を観た、梅の里なんだな?
「おまえさま・・・」
僕を呼ぶ声がする。
阿古夜の声・・・マヤちゃんだ・・・
振り返ると、阿古夜の衣装をまとったマヤちゃんがこちらに歩いてくる。
「阿古夜。」
阿古夜は一真の僕に嬉しそうに寄り添い、肩に頭を預けて来た。
愛おしい。
肩を抱いて顔をよせて、阿古夜の髪に口づけた。
芝居の稽古の時は、そこまで出来ないけれど・・・
好きだ。阿古夜・・・
・・・マヤちゃん・・・
『阿古夜・・・・』
どこからか、別の男の呼ぶ声がする。
低い、涼やかな声だ。
抱いていた阿古夜の肩が、僅かに震えた気がした。
「おまえさま・・・・」
「?」
自分を呼ばれたと思ったのに、見つめた阿古夜の瞳は、僕を映してはいなかった。
「ごめんなさい、桜小路くん!」
突然そう叫ぶと、阿古夜は・・・僕の阿古夜・・・マヤちゃんは僕のもとを離れてしまった。
内掛けを翻しながら、舞うように飛ぶように僕から離れていく。
「マヤちゃん!!」
僕は彼女を追いかけた。
走っていたと思ったら、いつの間にか、海の中を泳いでいた。
彼女を、助けなくちゃ!!
そう思って見ると、彼女はあろうことか、船の上だ。
あの声の男の、腕の中にいた。
・・・あれは・・・速水さんだった・・・
置いて行かれまい、と僕は懸命に泳いだ。
抱き合う二人は、僕のことなど気にもしていない。
そのうち、二人の姿が
何も身に纏っていない姿で・・・熱く抱きしめ合うのが・・・
波の間から、僕は力の限り叫んだ。
「ふたりとも、へんだ!!どうしちゃったんだ!
マヤちゃん!僕の阿古夜はどこに行ってしまったんだーーー!!」
は、と意識が戻った。
体中が重くて、身動きが出来なかった。
足は吊るされているし、あちこちにシップやら包帯やらが巻かれているし。
クダにもつながれているし。
どうしたんだっけ・・・
記憶をさぐって繋がるまでに、
僕を縛り付けているベットに寄りかかりながら
涙の痕をぬぐいもしないで
僕の手を握り締めて眠りこけている、
愛おしい彼女の姿をみつけた・・・
マヤちゃん。
ほんとうのキミは、いったいどこにいるんだい?
続くのか?とりあえず終わるのか?
結局ワタシは桜小路くんをどうしたかったのか。
ゴメンネ、桜小路クン。
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