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卒業 ~MASUMI 6 ~
2011-06-08 Wed 08:00
・・・細かいことは後にして、とっととスタート、します。


え?!なに?どゆこと?!ってことは、あとがきで。





                 卒業


 爽やかな5月の日曜日、亜弓は父の書斎を訪ねた。

紅天女には手が届かなかったが、十分な治療を施したあと、奇跡的に失明はまぬがれた。
燃え尽きそうだった演劇への熱意は、両親の住む家に戻ってから癒された。

最近は、父の仕事にも興味が出てきた。演ずる側だけでなく、演出や監督をする側で。

「パパ、あの、お願いがあるんですけど。」

父はパイプを燻らせながら、椅子を回転させて娘を見た。

「亜弓がパパにそう言ってくるなんて、珍しいな。言ってみなさい」
「実はね…」


白いレースのカーテンが風に揺れる。さわさわと緑の音がする。



「それは、パパにも興味があるな。名前だけなんて勿体無い。是非仲間に入れておくれ」
「世界の姫川監督が?!言っておきますけどね、ギャラは一切出ませんからね」
「それは、友人の父としては出すほうになるんじゃないのか?」
「…それもそうね…さんざん気を揉まされた分、遊ばせてもらいましょうか」

亜弓はいたずらっぽくうふふ、と笑った。
父は明るく笑うようになった娘を、愛おしく眺めた。






真澄が謎のモデルとしてCMに出るようになって1年が経とうとしていた。
始まった頃は、自分の失態が招いたことで仕方がなく嫌だったが

そのうちタレントとして活動する者の苦労や努力、裏方の気遣いなどを間近で見ることが出来、
その気持ちを理解することで自分自身の視野が広がったことを考えれば

嫌なことばかりでなく、いや、かえってマヤとの共同作業がなんとも楽しく
そろそろ契約終了が近い、ということも寂しく感じるほどだった。


「今回は、マヤさんとは別撮りになります」

珍しいこともあるものだな、と思った。
まさか、またドッキリなんじゃないだろうな。
こいつら、そういう時はそんな手段を使う事が多かったからな。
気付かないフリで騙されてやるのも、もう慣れたけどな。

とあるスタジオの一角でメイクをしてもらい、
いつものジーンズと白いコットンリネンのシャツと。
白い壁の前で、背中から撮る。
「少し…そうですね、切ない感じで。お願いします」
言われるまま、頭を抱えたり髪をかきあげたりして撮る。
悩めるおっさん、か。

「ありがとうございました!では、これから合流しますので、移動おねがいします」

マヤとのシーンもあるんだな。
…そういえば、そんなことひと言もマヤは言ってなかった。
…またドッキリのパターンか?
…覚悟して行かねばな…






「姫川監督のショートムービーって何なんだ?」
「どこか外国の映画祭への招待作品かなんかじゃないの?」
「それにしても、そんな作品におれ達なんか使うのか~?」
「マヤがメインだからね、声かけてくれたんじゃないのかな」

「それにしても、ちょっとよそ行きの服装で…って普通のスーツなんて持ってないからな~」
「いいじゃない、ユニオンの服だったらそれなりに見えるって」
「それでもいいって監督言って下さったしな」

「それで、マヤは?」
「こんなチャペルが舞台だからな、およそ花嫁衣裳だろうよ」

「あれ、黒沼先生!」
「…先生は…めかし込んでますね~」
「うるせえ。花嫁の父だからな、当たり前だ」





どうやら車は、ホテルの別館のチャペルに向かっている。
いぶかしんでいると、隣にいた社員が声をかけて来る。

「速水社長、今日のタイトルは、「卒業」です。おわかりになりますね」

いつになく、真面目な表情だ。
人にいっぱい食わせてやろう、というような顔ではなかった。

「愛する人が、結婚しようとしています。
花嫁を、略奪してきてください」


「・・・・わかった」







    ユニオン・クロゼット180秒CM「卒業」



 ブーケを持ち、レースに縁取られた花嫁が父に携われてバージンロードを歩く。
伏し目がちに、ゆっくりと。

ナレーション「いままで、本当にありがとう
      
参列者の拍手と笑顔のなか、花嫁の横顔。緊張する父の顔。
ちょっと躓きかけて、顔を見合わせてふ、と見せる笑顔。

あなた達のおかげで、私たちはこんなに成長できました

ゆっくりと、祭壇の前に近づく。

感謝をこめて。心からの祝福を贈ります

祭壇で待つ新郎は…例の彼ではない。
例の彼の、イメージ。苦悩する後姿。

どうか…どうか

彼が、走ってくる。チャペルに向かって。風を切って。

どうか幸せに、なって下さい

バン!とチャペルのドアを開ける彼。名前を叫ぶ。

その声を聞いて振り向く花嫁。花が咲くように、こぼれる笑顔になる。

バージンロードを突っ切って、彼が走り寄る。
花嫁と抱きしめあう。
そして、ひょい、と花嫁を抱きかかえて走り去ってしまう。

あっけに取られる新郎、にんまりする父親。
大歓声の参列者たち。

チャペルの外に出て花嫁を降ろす彼。見つめあい、笑って、
手を繋いで走り出す。靴を脱いで、ブーケを空に投げ上げて。
飛び立つ鳩。鐘の音。

走り去る、ふたりをみながら。

おふたりのしあわせをねがっています

ロゴ。ユニオン・クロゼット
   
   Special thanks to Mitsugu HIMEKAWA & Ayumi HIMEKAWA

ちいさく。「ブライダル衣装はありません






 撮影が終了し、拍手が沸き起こる。

亜弓がマヤにブーケを、真澄にブートニアを渡しに来る。

「亜弓さん?」「えっ、姫川監督まで。どうなさったんですか」
「このCMの企画はね、亜弓の発案なんだ」
「私、このCM大好きだったんだけど、真澄さんがかのモデルの正体だって聞いて
いてもたってもいられなくなってしまったの」

「ええええっ」参列者の中から、今更などよめきが起こる。

「それで私、ユニオン・クロゼットに押しかけてね、私にCM作らせてくれ、ってゴネたのよ。
モデルの正体バラすぞ、って」
「あ、亜弓くん…君って…」

「聞けば真澄さんをノセるために結構ドッキリ形式で作っているってことだったから、
皆さんにも協力していただくために、パパに一役かってもらったってワケ」

「いやぁ~久々にワクワクしたねぇ。ドッキリでこんな映像が撮れるなんて、新しい発見だったよ。
芝居をし慣れている俳優たちの、素の表情の美しさといったらなかったよ。いい勉強になって感謝しているよ」

「それで、ついでに、って言ったらヘンだけど、この際こんなサプライズも良いかと思って。
・・・お節介だったかしら?」


チャペルの扉を開けて、水城に伴われた車椅子の老人が現れる。
少し難しい表情をして、ゆっくりとマヤと真澄に近づいてくる。

真澄の背中に冷たい汗が流れた。
パフェおじさん=速水会長と前に知っていたマヤも緊張する。

芸能社の社長、ゆくゆくは大都グループの会長の座も約束されている人間が
ちゃらちゃらとモデルごっこか!!…と激しくなじられるもの、と思っていた。誰もが。

速水英介は、ゆっくりとマヤの側に近づき、破顔する。
「今日は天女よりも美しいね、お嬢さん」
「あんたに、プレゼントを持ってきたのだが」
「この老人が渡すようなものだ。
 お嬢さんに気に入っていただけなかったら、遠慮せずに突き返してもらっていいんじゃよ」

そう言って、懐から封筒を取り出し、マヤに渡した。

マヤは封筒をあけ、中から1枚の紙を取り出した。

「お義父さん…」

「お前ももう禊は済んだじゃろ。だが、華やかな席は用意せんつもりじゃ。
 そんなら、わざわざ姫川さんが用意して下さったこの場所で男を決めたらいい」

「真澄様」

振り返ると、聖が紫の薔薇を持って立っていた。

「お役に立ちますでしょうか?」

「・・・・ありがとう」

真澄は薔薇を受け取り、マヤに振り返って
足元に跪いた。

「…マヤ。皆さんのご好意に甘えるようで気が引けるんだが…
 こんな俺で良かったら… 俺と、結婚して…くれないか?」

マヤは婚姻届の紙を持って、涙を溢れさせていた。
真澄の差し出した紫の薔薇を受け取る。

「…はい。・・・・皆さん、本当に、ありがとうございます…!」


参列していたつきかげ・一角獣の面々が奇声を発する。
おじさん連中がにんまりする。
亜弓が真澄の胸元にブートニアを飾り付ける。

「普段タキシード着ている分、本番はラフなんて皮肉なものね」

「いいんだ、これが」

「さぁ、CMスタッフもみんな、配置について!
只今から速水真澄と北島マヤの結婚式をとり行います!
つきましては…あ、そうそう、桜小路くん、とりあえず私服に着替えてきてくれる?
新郎よりも新郎らしい衣装だものね。ご苦労様です」







ユニオン・クロゼットの特別CMは、6月第一日曜日「プロポーズの日」の11時22分に各放送局で一斉に流された。

1年間、世間を騒がせてきた「謎のモデル・M」の正体、姫川貢監督・亜弓親子の監督作品、
そして、女優北島マヤと、大都芸能社社長の速水真澄の電撃入籍と
大きな話題が重なり、日本のみならず世界にまで情報が行き渡ったのであった。

英介がモデル業について一切口を挟まなかったので、
その場の空気でなんとな~く、契約は延長されることになったのである・・・





おしまい。





 えーと、ウチの結婚記念日が6月5日でして。(2011年のプロポーズの日)
それに間に合わせたい、と、うおおおおっ!!との勢いで書いていました。
…しかし、どっちらけのキリ番騒動@自分だけ に押されて…今日になってしまいました。

ごめん、いつもパシリみたいに使ってしまって、コージくん。

CMシリーズ、というのはなんとなーく延長されるみたい、です。はい。

アッサリしたプロポーズで、ちょっと物足りないかも?ですが。
読んでいただいてありがとうございました!

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