台風が行ってしまって、急に涼しくなりました。
夜になればそろそろ秋の虫の声が聞こえてきます。

ああ、あんなに暑かった…クソ暑かった夏も逝くのね…（お下品）

さて、ライラさま・Hermans様共同企画の水着祭に納品していました作品、
「誘惑したい・されたい夏」がですね、

拙ブログの人気（いやん、自分で書いちゃったよ）シリーズの一部なので
そろそろ夏も終わるし、ってことで
夏の最後の思い出・お土産に、ということでお許しいただいて
拙宅でも公開させていただくことにしました。

お楽しみいただけたら幸いです。


それでは、続きからどうぞ。

　　　　　誘惑したい・されたい夏



「ところで、ユニオン・クロゼットの情報は何かないのか？」
　報告を終えて早々に去ろうとする聖を引き止めて聞いた。
　「申し訳ありません、なかなかあちらも用心深くて情報を漏らさないのです。」
　「君にしては珍しいな。そこまでセキュリティが厳重な会社だろうか」
　「お言葉ですが真澄様、あのCMはかなり話題になっていますから。実は私も楽しみにしているほどで」

　おれはギロッ、と聖を睨んだ。
　聖は平然として、ニッコリ笑う。喰えないヤツだ。



　そして案の定、おれはマヤと共に「拉致」されてしまった。
　秘書までぐるになっているなんてどうかしている。
　「今回は水着です」
　「水着」と聞いてドキン、と胸がときめいた。
　マヤが「ええっ！」と驚く。
　「あたし、自信ないですよ～。見ての通りのこの体格ですよ！
　　グラビアアイドルさんのほうが見栄えするから、今回はやめておいたほうが…」
　
　何を言い出すんだマヤ！君の身体のことは、おれのほうがよく知っている。
　すらっとした脚、華奢な肩、つるんとした腹。
　そのくせ胸は上品に上を向いて弾力があって、
　お尻だってぷりんっとして実に抱き心地が…

　マヤの目がこちらの表情をうかがっている。
　『なんで事務所社長のくせにストップかけてくれないんですか?!』な顔をして。
　自分の鼻の下が若干伸びている気がして手で覆いながら、
　そういう露出するような企画はあらかじめ通しておいてくれないと、と釘を刺した。

　「申し訳ありません」と言いつつ、代理店の社員はニコニコしながら
　「で、マヤさんの水着を社長にも見立てていただきたいのですが」だと。
　そしてずらっ、と新作水着の並んだコーナーに連れて行かれる。

　さっきまでの戸惑いが嘘のように、マヤの表情が輝く。
　「うわぁ！かわいい、このフリルのついたの！」
　どちらかというとふわふわとした色使いのヒラヒラした物が多い。
　黒でカッティングがシャープなもの、とか露出が多いもの、というのは僅か。
　
　少し、ほんの少し落胆しながら楽しくマヤにつきあう。
　そのうち身体にあててみたりするのを…
　「実際に着けてみたらどうなんだ？」と聞きたくなってくる。
　結局、今回も向うの思う壺にハマっている…我ながら情けない。情けないが仕方がない。
　
　昔からマヤがどんな衣装を着けたら似合うのかを考えるのが唯一のストレス解消だったおれだ。
　（そのうち、その衣装を脳内で一枚ずつ剥いでいく作業も加わったが）
　あれこれと口出ししては、マヤがいろんな表情をするのを見る、なんて最高の贅沢だ。

　なんやかんやといいながら、結局様々な形のものを10着ほどに絞る。

　さて、さすがにおれは登場しなくて済む…と思っていたら。

　「社長に着けていただくのは、すでに選んでありますので」だと？

　白目青筋になったのは、言うまでもない…。




　「白いな。」
　「…白すぎます」
　「体格は申し分なし。…ちょっと際どいか？」
　「…思ったよりもご立派でしたね」
　「サポーターは？」
　「着用済みですが」
　「着用済みであれか…泣かせるね」
　「女子は大騒ぎです」
　「時間が無いからな…ボディ用ファンデとかは？」
　「ちゃんと用意してあります」


　女子連中が、寄ってたかっておれにファンデーションを塗りたくる。
　マヤも。
　始めはスタッフのみでやっていた中に無理矢理割り込んできた。
　くすぐったい。ヘンな気持ちになりそうなのを理性を総動員させて耐えた。
　「ちょ、ちょっと待て！ヘソの下と内股は自分で塗るから!!」
　


　「そうですよっ、そうでないとタイヘンなことになっちゃうんですからっ!!」

　


　……マヤ。…君がそれを言うんじゃない………。

　そこにいる、マヤ以外が全員（おれも含め）呆然白目で赤面したのだった。




　　～　ユニオン・クロゼット「水着編」30秒CM　～

　ホテルのプールサイド。
　さまざまなタイプの水着ではしゃぐ様子の少女。
　水をかけて来る。ビーチボールをトス。
　シンクロ風にプールに飛び込む。あるいは、鼻をつまんでポーズをとる。
　ポーズが変わるたびに、水着のデザインが変わる。

　透明な水の中を、彼が泳ぐ。きらきらと、魚のように。反対側のプールサイドまで。
　肩から背中の筋肉をみせて、プールから上がる彼の姿。

　ひょこ、と遮って出てくる、マヤの顔。

　　「そんなに、見つめないで。」

　いたずらっぽく笑って。彼の元に駆けてゆく。
　彼は手を組んで伸びをする。彼女がたどりつく。
　彼女が右手右足を振り上げ、踏みしめる。3回連続。
　彼も同調して。

　「誘惑したい・されたい夏。」

　「ユニオン・クロゼット」

　　　　　　　　　　　　　　　　　～撮影終了～


　
　「…速水さん…実はちょっと危なかったんでしょ?」
　「何が」
　「なんか嬉しそうだったです！ファンデ塗ってる時！」
　「妬いてるのか」
　「しらないっ」


　「実はあの後、ファンデーションは落とさずに来たんだ」
　「…あ。そういえば…」
　「クレンジングするのを…ウチでしようと思って。
　　…手伝ってくれるだろ？」
　
　「…もぅ…ばか。　　…しらない。」



　　毎回びっくりさせられるCM撮影だが、こんなふうな「オマケ」がついてくる。
　これが楽しくて、嬉しくて…つい、ムチャ振りに応えてしまう…
　
　まさか、「そんなの関係ねぇ」をすることになるとは。
　本家のブーメラン型海パン姿で。

　放送後、しばらく見なかったその芸人がもう一度盛り返した。
　テレビに出るたびに、「謎のモデルさ～ん、おれといっしょにユニット組みましょ～～」だとか。

　死んでもするか。ゼッタイムリ。


　「なんか速水さん…開き直ってますよね」
　………誰のせいだと思ってるんだ、小悪魔。
　「君の悪ノリにつきあってるだけだよ」

　「…でも、CMの速水さん…違うヒトみたいでドキドキします」
　「…その彼で…誘惑してやろうか？」

　悪ノリで言ったのに、赤面するマヤ。　　…なんか複雑だ。





　　　　おしまい！






ユニオン・クロゼットのマスマヤＣＭとしては、3作目にあたる水着編です。
ここから「初秋のふたり」に続きます。

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